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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2578号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

大有商事株式会社

右代表者

宮永進

右訴訟代理人

西川美数

外二名

被控訴人(附帯控訴人)

株式会社宮地鉄工所

右代表者

宮地武夫

右訴訟代理人

横地秋二

外二名

主文

控訴人の控訴並びに被控訴人の附帯控訴に基き原判決を次のとおり変更する

1  被控訴人の主位的請求を棄却する。

2  控訴人は被控訴人に対し、被控訴人から金六、〇〇〇万円の支払を受けるのと引換えに原判決別紙土地目録記載の土地のうち同目録添付図面(一)の(イ)(ロ)(チ)(リ)(イ)の各点に該当する地点を順次結んだ直線で囲まれた土地部分に存する建物及び工作物等(同図面(一)の③、④の一部、⑧、⑨、⑯、⑰、⑩、⑳、、、、、に表示する物件)を収去して、右土地部分を明渡せ。

控訴人は被控訴人に対し、被控訴人から金六、〇〇〇万円の提供を受けたときは、そのとき以降右明渡済みに至るまで一か月当り金五九万五、四八四円の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当事者について

1  請求原因1(一)の事実のうち、被控訴人がその主張の営業を目的とする株式会社で、東京都江東区新砂地域に本社及び第一ないし第三工場をその敷地とともに所有して営業していたが、後に(遅くとも昭和四九年以後)第一工場及び第三工場を閉鎖しその敷地を他に譲渡していることは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、請求原因1(一)のその余の事実を認めることができる。

2  請求原因1(二)の事実は当事者間に争いがない。

二本件賃貸借契約の成立とそれに至る経緯

1  被控訴人が終戦後概ね本件土地の一部にあたる約二、〇〇〇坪の土地を訴外田中組に賃貸したこと、田中組が右賃借土地を訴外神戸製鋼所に期間昭和二五年一一月一日から二年間、賃料月額金三万円の約定で転貸し、同年一二月二三日設立された控訴人が右土地を使用していたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、被控訴人の第二工場敷地及び本件土地一帯は大平洋戦争終結前海軍の軍需工場として利用されていたが、終戦後暫らく利用されることもなかつたところ、その後被控訴人が田中組に対し右の約二、〇〇〇坪の土地を貯炭場として使用することを目的として賃貸することになつたこと、ところが田中組が貯炭業務を止め、昭和二五年一一月頃右賃借土地を神戸製鋼所に対しスクラツプ集積所として使用する目的で前述のように転貸したものであるが、右賃貸借契約は、当時設立準備中であつた被控訴人が神戸製鋼所に納入するスクラツプの集積所として右土地を使用するため、被控訴人らの了解を得て神戸製鋼所の借主名義を借用して契約したものであること、控訴人は右転貸借契約後右土地をスクラツプの集積所として使用を開始し、右土地上に台貫(原判決別紙土地目録添付図面(一)のに表示するもの)を設置し、またスクラツプを切断するシヤーリング工場(前同⑤表示の建物の一部)、事務所、宿直室(前同⑥からにかけての位置に存在した)、工員控室(前同⑭の建物の一部)などの建物を建築したことが認められる。

2  請求原因2(二)の昭和二六年一〇月一日被控訴人と控訴人の間に本件賃貸借契約が成立した事実は、契約違反の場合における無催告解除の特約があつたこと、右契約が成立した際控訴人から被控訴人に支払われた金一五〇万円の趣旨並びに特約(5)及び(6)の趣旨を除いて当事者間に争いがない。

ところで、本件賃貸借契約の目的について、被控訴人は、従前の田中組と神戸製鋼所との間の転貸借契約と同様スクラツプ集積所として一時使用する目的のものであると主張し、一方控訴人は、工場等建物の所有を目的とするものであると主張するので、この点について判断する。

〈証拠〉を総合すると、控訴人が昭和二六年頃スクラツプ集積業務の必要上、田中組から転借していた土地上に、クレーン設備(原判決土地目録添付図面(一)のに表示するもの)及びプレス工場(前同④の建物の一部)を建築しかけたところ、同年八月頃、当時の被控訴人代表者であつた亡宮地栄次郎が控訴人に対して、「田中組に右土地を賃貸した期間は一年間であつたのであるから、控訴人において半永久的な建物を建築することは困る。」旨の抗議をしたので、双方で交渉を重ねた結果、被控訴人が右クレーン設備及びプレス工場の建設を承認し、将来同様の紛争が生ずることを防止するため賃貸借期間を二〇年とし、その代償として控訴人が被控訴人に金一五〇万円を支払うこととして、同年一〇月本件賃貸借契約を成立させるに至つたこと、右金一五〇万円は本件従前土地の昭和二六年当時の更地価額約金二〇〇万円の七割五分にも相当する金額であつたこと、もつとも、被控訴人が控訴人に対して右金一五〇万円の領収証として作成交付した預証には「土地賃貸借契約の終了又は解除の場合の貴社の原状回復費として原状回復するまで御預り致します」と記載されているが、右の記載は宮地栄治郎が税務対策のためにそのように記載したものであつて、当事者間においては右金一五〇万が契約終了時にも返還されることのないいわゆる権利金であることが暗黙のうちに了解されていたこと、本件賃貸借契約が締結された当時右クレーン設備及びプレス工場は完成間際の状況にあり、右の完成後同工場及びクレーン設備の運転に必要な電力は、後日控訴人が発電所を設置するまで被控訴人がその既存の電力供給設備を利用させて供給したことがあつたこと、本件賃貸借契約においては被控訴人の承諾があれば控訴人が本件従前土地上に必要とする建物、その他の施設を建築してもよいことが合意されていたところ、昭和二七年七月控訴人が仮締場(前記図面(一)の⑧、⑨、⑯、⑰に表示する現在の車輪工場の一部)を建築するにあたり、被控訴人の当時の常務取締役稲葉久美のもとにその建築を依頼したところ、同人は訴外東邦鉄工に依頼したらよいと助言したので、結局東邦鉄工に建築を請負わせたが、被控訴人は右建築工事に必要な電力につき被控訴人の電力供給設備を利用することを承諾し、右仮締場の建築につき承諾を与えたことがあつたことが認められる。〈証拠判断略〉

右認定事実によれば、本件賃貸借契約は、控訴人が田中組から転借している間に設置ないし建築した本件従前地上の台貫、シヤーリング工場、事務所、宿直室用建物、工員控室用建物の存在を容認し、新たにクレーン設備及びプレス工場の建築を許容することを前提として締結されたものであり、さらにその後も被控訴人は控訴人に対し仮締場の建築を許容しており、賃貸借期間も借地法上許容された最短期間である二〇年で、契約に際し著しく高額の権利権が授受されているものであるから、本件賃貸借契約においては、その土地利用目的はスクラツプの集積所としてのみ一時使用するためのものであつたとは認め難く、スクラツプの切断、プレス工場等及びそれに関連する営業用建物、設備の所有を目的として賃借権が設定されたものであると認められる。

なお、本件賃貸借契約書には、「株式会社田中組と株式会社神戸製鋼所との間の別紙土地賃貸借契約を承継の上今般株式会社宮地鉄工所と大有商事株式会社との間に次のとおり土地賃貸借契約を締結する。」と記載された付箋が貼付されており、一方〈証拠〉によると、田中組と神戸製鋼所との間の前記土地転貸借契約においては土地使用目的が「製鋼用鋼材スクラツプ集積所として使用すること」とされていたことが認められるので、右付箋に記載された趣旨が本件賃貸借契約は右の田中組と神戸製鋼所との間の転賃借契約における土地利用目的の合意を承継することにあるとすれば、本件賃貸借契約における土地利用目的も右に限定されることになる。しかしながら、前述のように、本件従前土地は、本件賃貸借契約以前にも、純然たるスクラツプの置場所としてのみ使用されていたわけではなく、スクラツプの集積に加え、その切断分類等の作業場としての建物及び設備を設けて使用されていたものであり、前掲〈証拠〉によれば、前記の前契約承継の特約は、控訴人側の申出により加えられたもので、その趣旨は、田中組と神戸製鋼所との転貸借契約において定められている本件従前土地の地盛りや岸壁修理の費用の分担の約定趣旨を本件賃貸借契約においても維持することを主眼とするものであつたことが認められる。結局、前記の前契約承継の特約があるからといつて、本件賃貸借契約の土地利用目的が建物所有を目的とするものであるとの認定を覆すことはできない。

三変更契約の成立と本件賃貸借契約との関係

1  請求原因2(三)の前記賃貸借の目的土地を本件土地の範囲に変更する旨の契約が成立した事実は、控訴人が被控訴人の主張する建物を建築するについて被控訴人の承諾を受けずになし、被控訴人よりの抗議に対し陳謝したとの事実を除いて、当事者間に争いがない。

2  控訴人は、昭和三〇年四月四日付の土地賃貸借契約一部変更契約は、賃貸借目的物に新たな土地部分を包含したものであり、かつ地上建物の建築状況が昭和二六年一〇月一日当時と大きく異つているうえ新たなシルペツプ工場を建設することを前提としていたことなどにより、期限の定めのない新たな賃貸借契約が成立したものであると主張するので、この点について判断する。

〈証拠〉によれば、本件賃貸借契約の目的土地の範囲は当初概ね原判決別紙土地目録添付図面(二)の点線記載のとおりの地形であつたので、控訴人及び被控訴人の双方ともその使用上不便を感じていたところ、昭和二九年六月頃被控訴人の方から控訴人に対し、使用しやすいように賃貸土地の範囲を方形に改めてはどうかとの提案がなされ、両者間で種々折衝が行われたが難行して交渉妥結に至らないままで経過していたため、被控訴人が同年一二月二日交渉打切りを決意し、同日付内容証明郵便(同月四日送通)をもつて控訴人に対し、控訴人が本件賃貸借契約に違反し、被控訴人の承諾なしに建物その他の施設(請求原因2の(三)の建物等)を建築したことを理由に契約を解除する旨の意思表示をしたこと、これに対し控訴人が反論しながらも本件賃貸借契約関係の維持を懇請したので、被控訴人は、事業上本件土地全部の返還を受ける必要に変りはないが、とりあえず当面の土地使用上の不便を除去し、最終的解決は賃貸期間の満了まで一応待つ方針に転向し、控訴人の方も計画していたシルペツプ工場の建設予定場所を変更して、双方で前記のような変更契約を締結したこと、控訴人は右締結後原判決別紙土地目録添付図面(一)の⑤に表示したシルペツプ工場を建築したことが認められる。

右認定事実によれば、本件従前土地上にある控訴人の建物その他の施設の建築状況が本件賃貸借契約当初と較べ大きく異つており、また本件土地上に新たにシルペツプ工場が建設されることが予定されていたとはいえ、被控訴人としては本件土地全部の明渡を願望し、その達成に最大の関心を有していたものであるから、被控訴人が本件変更契約により従来の賃貸期間の経過を全部無にし、新たに借地法上期間が三〇年とみなされる期限の定めのない賃貸借契約を締結する意思を有していたと推認することは到底できない。しかも、右変更契約の契約書においては、賃貸土地の面積及び形状並びに賃料の各変更のみが規定され、期間の伸長変更などについては何ら触れられておらず、賃貸借のその余の内容、約定は定められていないのであるから、本件変更契約をもつて新規の賃貸借契約の締結であると認めることはできない。

結局、本件変更契約は、それまでに本件土地上に建築された建物その他の施設の存続と控訴人が新たにシルペツプ工場を建築することを被控訴人が承認することを前提とし、本件賃貸借契約の目的土地の面積及び形状並びに賃料の変更のみを意図する合意にすぎないと解すべきであつて、控訴人の前記主張は容認することができない。

四本件賃貸借契約の存続期間の満了と被控訴人の異議

1 本件賃貸借契約の約定期間である二〇年が昭和四六年九月三〇日満了したことは当事者間に争いがないところ、同契約が工場用建物等所有の目的で設定されたものであることは前記二の2に説示したとおりであるから、右契約の更新については、借地法四条ないしは六条の適用がある。

2 本件記録によると、被控訴人は、昭和四二年一〇月二三日本件訴を提起し、主位的に無断建築を理由とする本件賃貸借契約の解除を原因として本件土地の明渡を求め、予備的に賃貸期間が昭和四六年九月三〇日満了して賃貸借契約が終了することを原因として同日限り本件土地を明渡すべきことを求めたが、その後、右主位的請求を撤回し、予備的請求を賃貸借期間満了日の経過により現在の給付の訴に改め、更に予備的に立退料の支払と引換えに本件土地の明渡を求める請求を付加したものであること、これに対し被控訴人は終始右各請求の棄却を求めて争つていることが認められる。

右のような経緯のもとに訴訟が係属している間に、賃貸期間が満了したときは、特段の事情が認められない限り、賃借人は右期間満了の際黙示的に借地法四条所定の契約の更新を請求したものと認めるのが相当であり、賃貸人もまた右更新請求に対し直ちに黙示の異議を述べたものと認めるのが相当である。したがつて、本件においては昭和四六年九月三〇日に本件賃貸借契約の約定期間が満了した際に、控訴人が被控訴人に本件賃貸借契約の更新を請求し、これに対し被控訴人が直ちに異議を述べたものと認めるのが相当である。

3  また、控訴人が本件賃貸借契約の期間満了後も本件土地の使用を継続していたこと、これに対し被控訴人が昭和四六年一〇月二日控訴人に到達した内容証明郵便をもつて異議を述べたことは当事者間に争いがないところ、右異議が借地法六条所定の法定変更を妨げうる遅滞なき異議に該当することは明らかである。

4  よつて、本件賃貸借契約の更新の成否は、右各異議について正当事由が存するか否かにあるものというべきである。

五正当事由の存否

1 借地法四条一項あるいは六条一項、二項所定の異議について必要とされる正当事由の存否を判断するにあたつては、土地所有者側及び借地人側の土地使用の必要性等双方の事情を比較考量して考察すべきことは当然であるが、さらに、右借地権が設定されるに至つた経緯、右借地関係の存続中における経済的関係及び信頼関係の実情、借地期間満了時の前後において借地関係を消滅させ又は存続させるために当事者がとつた措置、土地所有者の土地明渡請求の態様等の諸般の事情も考慮されるべきものと解され、土地所有者が異議を述べた後になつて正当事由の充足のため借地人に対しその土地明渡による損失の一部又は全部の補償である立退料の支払をする旨の意思表示をした事実も、当事者の利害の比較考量の資料として参酌されるべきである。また、右の正当事由は、借地期間満了の時ないし土地所有者が異議を述べた時(基準時)までの事実関係を主たる要素としてその存否を判断するのを原則とすべきであるが、右の基準時から著しく隔つていない時期に生じた諸事実も、右基準時において予想し得たものである場合及び右基準時における正当事由の存否の徴憑たり得るものである場合には、これを補完的に考慮するのが相当である。

そこで、叙上の観点に立つて以下本件における正当事由の存否を判断する。

2  控訴人の背信行為の有無

(一)(1)  本件賃貸借契約において賃借土地に建物その他の施設を建築する場合には被控訴人の承認を要する旨の特約があつたところ、控訴人が昭和二七年六月頃から請求原因2(三)に記載されている建物を建築したこと、被控訴人が右の点を捉えて右特約違反と主張し昭和二九年一月四日控訴人に対し内容証明郵便をもつて本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは前述したとおりである(理由三項)。右特約の趣旨について、控訴人は、いわゆる例文であつて、ホテルとか料理屋などを建築して賃借土地の利用に重大な変更を及ぼす場合には被控訴人に相談しなければならないとするものであつて、工場用建物の建築一切を無断で建築することを禁止するものでないと主張し、原審における控訴人代表者の尋問の結果には右主張に副う供述部分があり、乙第四号証に右に符合する記載があるが、本件貸借契約及びその変更契約が締結されるに至つた経緯などに照らしたやすく措信できない。しかしながら、本件賃貸借契約は前記のようにスクラツプの切断、プレス加工工場及びそれに関連する建物及び施設の所有を目的とするものであつことからみても、また右の特約が「賃借物件上に建物その他の施設を必要とする場合には甲(地主)の承諾を受けて自己の負担においてこれをなすことができる」と表現されていることからみても、右の特約は賃借土地の利用状態を著しく変更しないような工場建物等の建築についてまで、被控訴人において特段の事情もなく建築承認を拒絶しうることを定めたものとも解されず、被控訴人も前記のように契約解除の意思表示をしたものの、爾後控訴人との間で話し合い、結局右建物の建築を事後的に承認し、変更契約を締結して賃貸借関係を維持する態度に出たものであることは前述のとおりである。してみれば、控訴人の右建物建築については多少強引な点があつたとしても、結局被控訴人の寛恕したところであつて、この期に及んであらためて背信行為として非難するのは当を得ない。

次に、控訴人が昭和三一年以降も原判決土地目録添付図面(一)の②、③、⑤、⑥、⑧、⑨、⑪、⑬ないし⑳の建物を建築ないし増築した事実については控訴人が明らかに争わないから自白したものとみなすべきであり、さらに本件第一審中に同図面の倉庫を、第一審口頭弁論終結後同の変電所を建築したことは当事者間に争いがない。右の建物の建築等に際して控訴人が被控訴人の承認を得たと認めるべき証拠は見当らないから、結局控訴人は右の点で前記特約に違背したことになるが、当審における控訴人代表者卜部寛の尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、右建物等の多くは本件賃貸借契約及び変更契約当時控訴人の事業として予定されていたものないしその発展にともなつて必要となつたもの又は従前の施設等の老朽化、危険化にともない改築を要したもので本件土地の利用状況を格段に大きく変更したものではないと認められるので、控訴人の背信性は著しく高いものということはできない。

(2)  被控訴人が昭和三七年及び昭和四〇年の二回に亘り、控訴人に対して、代替地を提供するから本件土地を返還してほしい旨の申し入れをなし交渉したことがあつたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によると、昭和三〇年代に入つて被控訴人の事業の拡大と製品の大型化は著しく、被控訴人は昭和三六年から同三七年にかけて、従来材料置場及び仮組立工場として使用していた現第二工場敷地に橋梁等の製造を主体とする現在の第二工場(溶接工場、材料ヤード、仮組立ヤードの三棟から成る。)を建設したが、同敷地の狭少のためその機能に制約があり、本件土地を控訴人から返還してもらい材料ヤード及び仮組立ヤードを東側縁の運河の地点まで延長することが望ましかつたので、右のように本件土地の返還方を交渉するに至つたこと、右交渉において、被控訴人は、本件土地の返還条件として、賃貸借期間の残存分の補償として代替地を提供し、被控訴人の費用負担で控訴人の工場等を移転することを提案したが、控訴人は賃貸期間の残存期間とは関係なく本件土地の賃借権と全く同等の価値ある代替地の所有権あるいは借地権の提供又は右と同等の価値を金銭で補償すべき旨を被控訴人に要求したこと、そこで昭和四〇年の交渉の際には、被控訴人が代替地として被控訴人の第三工場の隣地に材料置場として第三者から賃借していた土地を提供することを提案したが、本件土地及び右土地の鑑定価額について控訴人が異議を唱えるなどしたため、右交渉も妥結する結果とならず、遂にこれらの交渉は立ち消えに終つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、右の交渉における控訴人の主張については、被控訴人の提案した返還条件の内容並びに控訴人が月額坪当り金一〇円という著しく低額な賃料による恩恵に多年浴していることなどからみれば、被控訴人側において不当に過大な要求と受取つたことは理解できなくはないが、右返還交渉が期間満了まで相当の年月を残している段階でなされたものであつて、同時期はいわゆる経済の高度成長期で本件土地を基盤に事業営む控訴人にとつてもその返還は経営上多大な損失を蒙るものであつたことは容易には推認されること、前述のように控訴人が本件賃貸借契約の締結に際し被控訴人に権利金として当時としては高額の金一五〇万円を支払つていること、また後述するように控訴人が本件土地の改良等のため少からぬ出資をしていることなどを考慮すると、右交渉における控訴人の態度をもつて背信的行為であるとはいいえない。

(3)  被控訴人は本件訴訟第一審における和解手続に際して、被控訴人において控訴人の移転先となるべき船橋市所在の代替地を斡旋し、右土地の取得代金の半額金九、〇〇〇万円を負担することを提案したのに、控訴人がこれを受け容れなかつたことを非難するが、右は控訴人と被控訴人との間の本件土地に関する紛争が訴訟となつてからの事実であり、控訴人が右和解案を受諾しなかつたことをもつて背信的行為であるとして、これを本件賃貸借契約更新についての異議の正当事由の一要素とすることは相当でない。

(二)  以上によれば、被控訴人が正当事由の判断要素のひとつとして主張する控訴人の背信行為なるものは、右(1)の事実のうち控訴人が昭和三一年以降に本件土地上に建物等を無断で建築ないし増改築した点を除いてはこれを認めることはできず、右事実も、これらの建築ないし増改築をした経緯、程度に鑑みれば、正当事由の存否を判断するうえで決定的な重要性をもつものとは認められない。

3  被控訴人の自己使用の必要性

(一)  (本件土地の使用計画とその必要性の具体化した時期)

〈証拠〉によると、被控訴人は、わが国の経済成長に応じ逐次経営規模を拡大し、資本金も増大し、昭和三一年頃工場設備拡張合理化八か年計画をたてて実施にかかり、第一工場を整備し、昭和三六年から同三七年にかけて第二工場を建設し、昭和三八年一一月には第三工場も建設して右計画を一応完了したが、なお事業の拡大傾向は著しく昭和四四年頃までには市川工場や福山工場を建設する計画もたてたが、既設の各工場の敷地不足に悩み、殊に本件土地に隣接する第二工場についてその機能が充分に発揮できず、その操業の合理化のためには本件土地を使用することが必要であると考えていたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

ただ、本件土地の返還を受けた場合の被控訴人の使用計画について、被控訴人は、はじめ仮組立ヤード二列、材料ヤード一列を増設するとし(原審における昭和四四年二月七日付準備書面)、次いで、原材料、仕掛品、製品置場として使用するとし(同昭和四五年一〇月三日付準備書面)、更に原材料置場、製品置場及び従業員の厚生施設を設置する予定であるとし(同昭和四七年二月一九日付準備書面)、最終的に右使用計画の具体化として甲第四五号証の図面記載のとおりの第二工場整備計画のあることを明らかにし(同昭和四八年一二月一二日付準備書面)、その主張する使用計画の内容に変遷があることが本件記録上明らかである。そして、被控訴人は右第二工場整備計画は昭和四六年初め頃から検討を重ね同年九月の役員会で決定したものであると主張するが、原審における証人笠間嘉雄の証言によると、右計画図面は同証人が原案を作成し昭和四八年一〇月頃の役員会に提出したことが認められ、右主張に副う被控訴人代表者宮地武夫(原審第一回及び当審)、原審における同稲葉久美の各尋問の結果はたやすく採用できず、甲第五四号証(被控訴人の昭和四六年九月二八日開催の取締役会議事録)には議案の末尾5のD項に「第二工場整備計画決定の件」と記載されているが、その位置、タイプ印字の状態を比較検分すると、右部分は後日記入されたものではないかとの疑問が残り右の記載もたやすく措信できない。

しかしながら、使用計画の内容が変遷しているといつても、所詮本件土地が返還されたならばという仮定の上に立てられた使用計画であつて、経済状況、操業状況の変化及び計画の具体化に応じ多少の変更があることはことの性質上やむを得ないことであり、しかも、第二工場の工場機能を十全に発揮するために本件土地を使用する必要があること、とりわけ原材料置場に使用するという点においては終始一貫しているので、使用計画の内容が固定していないことを理由に被控訴人の本件土地必要性が切実なものでないという控訴人の主張は当らない。

そして、〈証拠〉を総合すると、被控訴人が控訴人の本件賃貸借契約の更新請求を拒絶しあるいは本件土地の使用継続に対し異議を述べた昭和四六年九月末日から同年一〇月初めの時点において、被控訴人側において本件土地の返還を受けた場合に原材料置場、製品置場及び従業員の厚生施設の敷地として使用する方針が大綱において決まつていたこと、その具体案が昭和四八年の前記第二工場整備計画として集約されたものであることが認められる。

(二)  (必要性の程度)

そこで右のような本件土地使用によつて受けうる被控訴人の利益及び使用できないことによつて蒙る被控訴人の不利益などについて検討する。

(1) (原材料置場及び製品置場に関する事情)

〈証拠〉によると次のとおりの事実が認められる。

(イ) 本件土地及びその南側に隣接する被控訴人の第二工場の敷地の一部(旧溶接工場現在第一棟と呼称されている建物が存在する場所)の東側縁は私有水面である運河に接しており、そのうち本件土地の接水幅は約八〇メートルにも及ぶこと、右運河に接する土地部分は、昭和一三、四年頃以降訴外八幡製鉄株式会社及び富士製鉄株式会社(両者とも現在は新日本製鉄株式会社)の原材料運搬に関する指定河岸となつており、被控訴人が右私有水面を所有する訴外東京湾土地株式会社から右運河のうち岸壁に接する水面につき優先使用権を与えられているので、被控訴人が右製鉄会社等から購入した鋼材等の荷受などをするのに右指定河岸を利用できれば能率的、経済的であること、被控訴人が優先使用権を有する水面には現在木材が繋留され、貯木に使用されているが、被控訴人において右水面を利用する場合には何時でも他所に右木材を移動してもらえることになつていること、また右水面部分の河岸は、現在護岸のため大量の割石がその裾部に積み上げられており、艀を岸壁に接着させることはできないが、長いアームのクレーン等を使用すれば荷役に利用できる状況にあること、しかしながら、現実には控訴人が本件土地を占有し、右指定河岸のうち本件土地に属する部分を被控訴人が右の荷役の用途に使用することができず、第二工場の第一棟の運河に面する開口部も同所に荷受用のクレーンを設置して操作すると右第一棟の作業能率上相当の支障を生ずるので、右の荷役場所の用には供し難いこと。

(ロ) 右のような事情と前述のような工場敷地の不足のため、被控訴人はかなり以前から原材料または製品置場として、数か月、半年、一年などの短期間の契約で第三者から毎年数千坪に及ぶ土地を賃借したり、あるいは第三者に原材料の保管を委託するなどしなければならなかつたこと、そして、右借地のため、被控訴人は昭和四六年中には、訴外東京都港湾局(賃借面積二万一、〇〇〇平方メートル)、同株式会社長谷川万治商店(前同九、九〇〇平方メートル)、同日商岩井株式会社(前同九、二六四平方メートル)らに対し賃料として合計金三、〇七〇万七、六〇〇円も支払い、昭和四七年二月からは新日本製鉄株式会社(前同同年三月末日まで二、〇〇〇坪、同年一一月末日まで三万三〇五七平方メートル)に月額金二〇〇万円(ただし同年三月末日までは金四〇万円)の賃料を支払つたこと、更に右のような原材料の保管委託のため、被控訴人は昭和四六年中には訴外住友商事株式会社、同川鉄商事株式会社、日商岩井株式会社等に対し総量一万五、五〇〇トン余の鋼材の荷揚、整理、保管、出荷料として合計金四、二三三万九、〇〇〇円を支払つたこと、一方本件土地の賃料は、本件賃貸借契約成立当初から月額坪当り金一〇円であつて今日まで値上げされていないところ、昭和四四年以降本件土地の固定資産税及び都市計画税は一か月坪当一〇円を超え、昭和四六年度は一か月坪当り金二〇円五九銭となつたため、右税金さえ賄うにも足りず、まして前記借地料あるいは保管料の一部にも充当できなかつたこと、これに対し、本件土地の返還を受けてこれを原材料置場及び製品置場として使用することができた場合、それでも第三者の土地を賃借しなければならない事情は依然として一部残り、その割合は第二工場における操業度及び原材料使用量などに応じて変動するものではあるが、第二工場における昭和四六年中の操業実績及び原材料使用量等が続くものとすれば、前記借地の一部が不要となり、原材料の保管委託関係の一部も解消され、右賃料及び保管委託費の一部を節減することができること、

(ハ) 被控訴人は第二工場走行ガス切断機を所有しているので、本来ならば製鉄会社から原材料の直送を受けて自社で切断することができるが、原材料置場不足のため製鉄会社ないし保管委託先からシヤーリング会社に陸送し、シヤーリング会社で原材料を切断させ、これを第二工場に陸送するという手順を採つていること、このため右切断加工費及び陸送費用を支出しているが、本件土地の返還を受け、その一部を被控訴人の計画どおり原材料置場として使用することができれば、右工賃及び費用の何割かを節減することができること、また右の原材料置場のうちの一部を被控訴人の計画どおり切板整理場として使用することができれば工程上のロスが減少すること、右の原材料置場を右計画どおり使用することができれば被控訴人は原板を直接製鉄会社から購入でき、切板で購入する場合に較べて安価に鋼板を入手することができること

(ニ) 被控訴人は、製品置場が不足するため第三者から借地し、それを整品置場として使用したことは前述のとおりであるところ、本件土地の返還を受け、その一部を被控訴人の計画どおり製品置場(直送品置場と仮組立を要する製品の置場である製品整理現場とに分けて使用)として使用することができれば、従来直送品を他の製品置場(借地)へ運送するため運送料、荷役機械賃料及び荷役労務費を支出していたので、その何割かを節減できること、被控訴人は組立用製品ができても整理場がないため直ちにこれを第三工場内の仮置場に搬送し、仮組立をしていたが、同工場内を小運搬し仮組立の荷揃えをするため、余分な労務費を支出していた(もつとも右の第三工場敷地は昭和五一年に東京都に売却されたので、第三工場内における仮組立の荷揃えのための支出はなくなつた。)こと

以上の事実が認められる。

(2) (本件土地利用による得べかりし利益及び節減費用)

被控訴人は、右(1)の(ロ)ないし(ニ)に認定した本件土地を原材料置場及び製品置場ないし整理場として使用することによる得べかりし利益ないし節減しうべき費用を具体的金額をあげて主張しており(再抗弁(二)の3の(イ)、(ロ)、(ニ))、〈証拠判断略〉。しかしながら、被控訴人が原材料置場及び製品置場として第三者から土地を賃借している理由は前述のように本件土地が使用できないためだけではなく、もともと被控訴人の第一ないし第三工場の操業規模に対して工場敷地が不足していたことにもよるものであり、本件土地の返還を受けた場合、右借地の何割が不要となるかは、昭和四六年当時においても必ずしも明確であるとは言えず、経済状況、被控訴人の東京工場における操業度及び原材料使用量などに応じて変動するものであつて、これにより節減しうべき賃料額を具体的に認定することはできない。また、切板整理場使用による工程上の減少率等も計算上の具体的根拠、資料は明らかでなく、鋼材の価格及び被控訴人のその使用量も市況に応じ変動しやすいものであり、右鑑定評価においてその前提となつている諸因子は浮動的なものが多く、その基礎となる数字もいちおうの推計に止まるとみるべきものがあり右鑑定評価額(月額三、二六八万九、〇〇〇円)をもつてそのまま本件土地使用による生産性の向上に基づく得べかりし利益額及び節減しうべき費用額であると認定することは困難であり、〈証拠判断略〉。結局、本件土地を被控訴人の計画しているとおり利用しえた場合、前記(ロ)ないし(ニ)に説示したとおり、これに対応する利益ないし費用節減があり、被控訴人側としてはその年額をいちおう金四億二、〇〇〇万余と計算していることは認められるところ、その金額は前記のとおり具体的に認定するには由ないものではあるが、前記証拠によれば被控訴人の会社経営上とうてい無視することのできない数額に上るものであることは認められる。

(3) (本件土地における原材料シヤーリングの可否及び要否)

なお、控訴人は、被控訴人が本件土地に原材料をシヤーリング(切断)する作業等を設けることは「首都圏の既成市街地における工業等の制限に関する法律」(昭和三四年法律第一七号)に違反して不可能であると主張する。

右法律は既成市街地への産業及び人口の過度の集中を防止し、都市環境の整備及び改善を図ることを目的とするものであり(同法一条)、既成市街地のうち政令で工業制限区域と定められた地域においては、作業場などの新設、増設することを原則として不可とするが、一定の基準に合致するものであれば都知事の許可により可とするものである(同法四条、八条)。従つて右法律は、産業及び人口の集中防止並びに都市環境の保護のため、作業場などの新設、増設を都知事の羈束裁量としての許可に委ねたものであるので、本件における被控訴人のシヤーリング作業場の設置が可能となるか否かは専ら被控訴人の許可申請の具体的内容、それに対する都知事の法律解釈適用の判断にかかわることであり、同法律上客観的に実現不可能であるといい切ることはできない。

従つて、右の点は控訴人の第二工場整備計画上検討されなければならない事項ではあるが、そのことの故に被控訴人の本件土地に対する必要性が大きく左右されるものとは解されない。

次に、控訴人は、被控訴人のような橋梁メーカーは、その必要とする原材料をシヤーリング会社に発注して、規定の寸法に切断されたものをその都度購入するのが取引方法及び作業態勢として常識であり、その方式のほうが経済的でもあると主張する。

〈証拠〉によると橋梁メーカーらが鉄骨、切板をシヤーリング業者から購入していることが多いことを推認できるが、〈証拠〉によると、中小のビル鉄骨建築業者や橋梁メーカーはともかく、被控訴人のような大手の橋梁メーカーでは自ら鉄鋼原板の切断加工設備をもち、原板を製鉄会社から直接購入し、自ら切断加工していることが認められるので、〈証拠判断略〉。なお前掲甲第二五号証(有価証券報告書総覧)には被控訴人の昭和四六年四月一日から同年九月三〇日までの事業年度において鋼板入手量が年間二万四、〇〇〇トンにも達するのに、期首及び期末の在庫が五万トンである趣旨の数値が記載されているが、〈証拠〉によると、鋼板の購入量と在庫量とが右のような数値になつたのは、被控訴人の特殊な帳簿上の処理の仕方に由来するものであり、現実と異るものであることが認められるから、右甲第二五号証の数値の記載をもつて被控訴人が橋梁等の製造過程で原材料置場、シヤーリング作業場等を必要としないことの裏付けとすることはできない。

(4) (従業員の厚生施設の要否)

〈証拠〉によると、被控訴人の第二工場は、当時の他の在京工場に較べて従業員の食堂、浴場、医務室、休憩室などの厚生施設が劣悪であり、従業員労働組合からその充実を長年にわたつて要求されてきたこと、被控訴人も右労働組合の要求に応ずるのが相当であると考えていたところ、たまたま第二工場西側の都道の拡張計画が発表され、右都道に接して存在する第二工場の倉庫を拡幅用地の収容にともないいずれ他に移転しなければならないことが明らかになつたので、同工場内に敷地の余裕がないことから本件土地の返還を受け、その一部に三階建の厚生館を建築し、一階を倉庫二、三階を右厚生施設として利用することを計画していることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(5) (市川工場新設等による本件土地の必要性の減少の有無)

被控訴人が千葉県市川市の埋立造成地に工場を新設する計画をたて、昭和四四年一二月市川市との間で五万三、七〇〇平方メートルの造成地の購入契約を締結し、遅くとも昭和四九年頃から右土地における市川工場を開業し超大型橋梁製作工場として操業していること、被控訴人が昭和四八年から同五〇年にかけて在京の第一工場を訴外西製鋼株式会社に売却し、昭和五一年に第三工場の敷地を東京都に売却したこと、右の第一工場の売却代金の一部が市川工場の新設資金に充てられたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によると、被控訴人の第一工場(敷地一七、五四五坪七八)は、一〇トン級のクレーン設備しかなく、小型橋梁と型橋梁の部品程度のものしか製作できず、工場設備も老朽化し、地盤沈下と道路事情の悪いことからこれを整備拡大することは望めなかつたところ、大型橋梁等の受注増加に対応するため市川工場の新設が必要となり、そのため第一工場をその敷地とともに同工場に隣接している西製鋼株式会社に売却することとし、昭和四八年九月二五日に売買予約をして、昭和五〇年一〇月一日右売買を完結したこと、被控訴人は、わが国の経済の高度成長にともなつて事業の拡大をしてきたものであるが、昭和四八年八月のいわゆるオイルシヨツクとそれに前後する国の総需要抑制政策により鉄骨、橋梁工事の受注量が一時的に激減し、昭和四八年一〇月から翌四九年三月末日までの営業年度では金一億八、五〇〇万円余の欠損が生じて無配に転落し、昭和四九年度の橋梁工事量はピークであつた昭和四六年度の約三分の一に落ち込み、昭和四九年度は欠損金四億九、五〇〇万円余を出し、その累積赤字は金一〇億九、〇〇〇万円を超え、昭和五〇年度には業績の向上により金一二億三、七二二万円余の利益(税引前)が計上されたが累積赤字のため無配を継続したことと、右の業績回復のためにやむを得ず、被控訴人は、昭和五〇年三月東京工場及び本社の従業員の約半分にあたる四〇〇名強を人員整理し、同年三月一二日第三工場(敷地約一〇、〇〇〇坪)を東京都に買収してもらい、また本州四国架橋工事と西日本地区の営業拡大を目指して広島県福山市に取得していた工場用地(一〇万三、〇〇〇平方メートル)も売主の広島県に返却し、拡大建設途上にあつた市川工場の建設も一時凍結するなどし、経営の縮少と合理化に努めたこと、市川工場は、敷地が約一万六、〇〇〇坪あるが、その二割は緑地化しなければならず、労働組合の要求もあつてその二割はスポーツ施設、その他の厚生施設にあてる必要があり、工場用地としては大巾に増大するものでなく、市川工場が第一、第三工場の果していた工場機能をも備えるように充実するためにはなお数年の建設期間を要し、その間は第二工場が東京の主力工場となるので、第二工場整備計画を実行して生産及び経営の合理化を進める必要があることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被控訴人の市川工場の新設、第一、第三工場の売却及び昭和四九年前後の橋梁等の生産、工事の減少の事実も、昭和四六年九月末当時において被控訴人に本件土地使用の必要性がなかつたこと又は少なかつたことを示すものとは認められない。

4  控訴人の継続使用の必要性

(一)  (本件土地の使用状況と営業状況)

〈証拠〉によると、控訴人は、昭和二五年一二月の設立当時の営業内容は単に鋼材スクラツプの収集、切断等をして神戸製鋼所に納入するだけであつたが、被控訴人からの賃借土地の範囲が本件土地となるまでの従前土地については、合計約金二〇〇万円の費用を支出して土盛り・護岸補修並びに台貫・シヤリング工場・クレーン・プレス工場・事務所等の建築等をし、本件土地を本拠として営業を拡大してきたこと、そして昭和三〇年の前記本件変更契約締結後は本件土地において省力機器の製作、シルペツプの製造などもするようになり、それらの製造に関して有する二十数種の工業所有権を利用して業績をあげ、経営規模を着実に拡大してきたこと、そのため本件土地上の工場、設備も漸次増加し、昭和四六年九月末当時の本件土地使用状況はほぼ原判決別紙土地目録添付図面(一)に表示されているとおりであること、控訴人の本件土地における現在の事業経営は(イ)スクラツプの再生利用を目的とする活用部門、(ロ)省力機器製造部門、(ハ)コンクリートの製造過程で石灰を粉砕する特殊鋼製の媒体であるシルペツプ、スチールボールを製造する部門の三つの部門により構成されていること、右の活用部門の具体的事業内容は、(a)訴外三菱製鋼株式会社東雲工場にスクラツプを売却すること、(b)右工場から特殊鋼の廃材を購入し、特殊な試験方法で成分鑑定をしたうえで寸法別に整理し、それぞれの用途に応じて需要者に販売し、このようにして選別して活用できない廃材は三菱製鋼に売り戻すこと、(c)右廃材のうちからスパナの原型を打抜いて製造し、これをスパナ製造業者に販売することから成つていること、また省力機器製造部門の事業内容は、需要者の注文に応じ省力機器を研究・設計して製造販売し、規格品であるドラムポーター、ポーターリフトなどを量産して販売するものであること、シルペツプ等製造部門の具体的内容は、前記三菱製鋼及び訴外東洋製鋼(旧平和製鋼)船橋工場に注文して製造させた特殊鋼を、控訴人が特許を有している方法で加工し、製造するものであること、控訴人の昭和四五年一二月一日から翌四六年一一月三〇日までの営業年度における製品売上は金九億円余で、その部門別の内訳はおおよそ活用部門が四、省力機器部門が五、シルペツプ製造部門が一の割合であり、同期の営業利益は金二、一六九万円余で株式配当も年一割で行つていたこと、そしてその次の営業年度(昭和四六年一二月から昭和四七年一一月まで)の営業利益は金一、七二一万円余であり、更に昭和四八年の営業年度には営業利益約金三、一六〇万円、昭和四九年の営業年度には営業利益金約二、九八五万円をそれぞれあげたが昭和五〇年度の営業年度には、政府の総需要抑制政策等の影響もあつて売上高は前年の四割減となり約金四、五五五万円の営業損失を生むに至り、無配に転落したこと、右の期間を通じてみると控訴人の営業する三部門のうち、省力機器製造部門の収益性、成長性が目立ち、控訴人の主力部門になつていること、活用部門は鉄鋼価格や関連業界の操業度の変動の影響を受けやすく収益性が不安定であること、シルペツプ製造部門はセメント業界の操業状況の悪化、セメント製造方法の転換もあつて受注量が減少気味であつたが、昭和五〇年中に新たに開発した高性能スチールボールの生産・出荷の増加次第で、収益の伸びも期待されることなどが認められ右認定を左右する証拠はない。

(二)  (控訴人の工場の移転の可否)

〈証拠〉によると、控訴人の活用部門は、三菱製鋼東雲工場(江東区東雲一丁目九番三号)との取引が中心であり、右工場が本件土地に近いことによりスクラツプ特殊鋼の廃材の搬出入のための運送費その他で多大な便宜を得ており、利益率の少いこの部門にとつて、右の点は営業コストなどのうえで無視できないものであること、また省力機器製造部門は、いわゆる一品物の製造が主力であり、使用する材料、資材、部品も多種多様で、製造過程での部品等の変更も頻繁であるので、控訴人が長年かかつて指導等をして緊密な取引関係を結んできた部品業者との関係を維持することが営業上不可欠であること、それらの事情をよく理解した業者は本件土地に近い江東区を中心として江戸川区、墨田区、千代田区、中央区に集中して存在し、控訴人がそれらの業者からあまり遠く離れた場所に移転すると製造能率、コストなどの面で少なからぬ不利益を蒙ること、シルペツプ部門は、原材料として特別な特殊鋼を必要とし、シルペツプ製造の利益率は特に少いので、原材料費、製造費、運送費などのコストを増大させないことが重要であるところ、本件土地に近く特に信頼関係の厚い三菱製鋼及び東洋製鋼から原材料の安定供給を受けていることにより利益を得ていること、もつとも控訴人は事業の一層の拡大を期して茨城県古河市に合計約一万一、〇〇〇坪の土地を買収し、右シルペツプ部門を同所に移転し、シルペツプの原材料から製品まで一貫して製造をする工場を建設する計画をたてたことがあるが、右土地買収を進めているうちに控訴人が製造を計画していたシルペツプがセメントの製造方法の変更により不適応となり、将来の需要が見込めないことが判明したので、右計画を取りやめたこと、しかしながら控訴人は右土地の買収を投資目的で進めて完了したが、昭和四一年三月右土地は住宅地域に指定され、もはや本件土地上にある工場等の移転のためには使用できないこと(因みに右土地は現在坪当り金二万円位の価値を有し、全体で金二億円以上になつているが、その内の三、〇〇〇坪については売却の目途がついているもののその余については直ちに換金できるものか定かでない。)、控訴人の各部門で働く工員は本工が約四〇名であつて、そのほとんどが江東区内に居住し(そのうち八名が本件土地上の社宅に居住している)、多くは熟練技能者、特殊技能者であるが、控訴人が本件土地から移転した場合、移転先によつては右の者の確保が困難となることが認められ、右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によれば、控訴人のいずれの営業部門も本件土地の地の利を最大限に浴しているものであり、移転が絶対に不可能ではないが、仮に控訴人が本件土地を離れ、同地上の工場を他に移転するとしても、三菱製鋼東雲工場等からさして遠くない範囲ないしは江東区近辺でないと営業上著しい損失を蒙ることになるが、右のような工場敷地を確保することは困難であること、もつともシルペツプ部門については控訴人自ら遠隔地に移転を計画したことがあるのでその移転につき著しい障害があるとはいえないことが認められる。

なお、〈証拠〉によると、昭和四七年一二月頃三菱製鋼がその東雲工場を福島県郡山市に移転する計画を発表したことが認められ、右計画を前提にするかぎり控訴人が本件土地において操業することに執着する理由の大半は失われるが、右証拠によると右移転計画はいわゆる日本列島改造ブームに乗つて決定された方針程度のもので、移転計画の具体的内容、移転時期は全く未定であることが認められ、その後右移転計画が具体的実施段階に進展したことを認めるに足る資料もない以上、右事由を本件土地から控訴人の工場を移転しうるか否かの判断の材料に加えることはできない。

(三)  (控訴人の工場敷地の縮少の可否)

〈証拠〉によると、本件土地には神社、庭園、緑地などなお工場用地として利用可能な遊休地が残つており、建物の配置も散漫な点がみられること、本件土地の通路の幅員は大型トラツクを入れるとしても多少狭めることは可能であること、運河沿いの資材、材料等置場の土地使用方法についても、資材の調達方法の合理化による備蓄量の調整、備蓄方法の可能な限りの立体化等を工夫すれば右の土地使用面積の縮少を図る余地があること、本件土地上の建物は比較的小規模で、簡易な構造のものが多く、社宅、事務所、研究室、車庫、自転車置場等を可能な限り集合立体化して重層建物に収容すれば利用可能な土地が拡大すること、場合によつては神社等も右建物の屋上に移転しうること、社宅を本件土地に設けなければならない必然性に乏しいこと、省力機器製造部門については、使用機械、製造物件の重量、大きさの関係上これを全面的に重層の工場建物にすることは困難であるとしても、比較的小型のポーターリフトやドラムポーターなどの車輛を製造している部門については工場の立体化、作業工程のライン化その他の合理化手段を採り入れれば、その敷地面積の縮少も可能であることが認められ、〈証拠判断略〉。

5  双方の事情の比較と結論

そこで、以上の事実をふまえたうえで被控訴人の本件賃貸借契約更新請求又は本件土地使用継続に対する異議の申立が正当事由を具備しているか否かにつき双方の事情を比較考量しながら検討する。

(一)  昭和四六年九月三〇日ないし同年一〇月初め頃の時点において、被控訴人に本件土地を原材料置場、製品置場及従業員の厚生施設の用地として使用する必要があつたところ、本件土地を使用できないことによる損失は、前記のとおり、その具体的金額は認定できないものの、被控訴人としては看過できない数額に上るものであることは推認できるのであつて、いかに被控訴人が我国における屈指の橋梁メーカーである大企業で昭和四六年当間・半期に営業利益金を金四億五、一〇〇万円強あげていたものであつても、その解消の必要に迫られていたことは明らかである。

(二)  一方、控訴人の本件土地における営業は、どの部門をとつても本件土地近辺の企業ないし江東区近辺の業者との取引上密接な関係を有し、右関係及び地の利を最大限に生かして利益をあげてきたものであり、控訴人が遠隔地に移転した場合には従来の取引先を確保し又は同程度かつ同種類の取引先を新規に開拓するには相当の困難を伴うものであり、生産費、諸経費の増加も著しいものになると認められ、他所に移転するとしても従前より取引関係を結んできた企業ないし業者からさほど遠くならない範囲であることが必要であり、その場合でも移転にともなう出費、移転中の操業停止による損失は控訴人にとつて過重な負担となるものと推認される。なお、被控訴人が本件土地の返還を請求するに当つては、後に第三者に売却してしまつた第一工場又は第三工場の敷地を控訴人に代替地として提供するか又は相当価額で譲渡などしておれば、控訴人側の右の不都合もかなり緩和ないし回避でき、双方の利害の調整も容易であつたのではないかとの推測も可能である。

(三)  被控訴人と控訴人とは会社としての規模のうえで格段の差があるが、双方ともそれなりに本件土地を使用する必要性は右のように重大なものがあり、右の必要性のみについてみれば何れが優位にあるとも断定しがたい。しかしながら、控訴人は本件土地に少なからぬ費用の支払及び設備投資をしたとはいえ、本件土地を二十年以上の長期にわたり坪当り金一〇円という著しく低額な賃料で賃借し続け、事業経営の実績を積み上げてきたもので右の期間に本件土地の恩恵を十分に享受している。また、控訴人の本件土地における営業は、本件賃貸借契約成立当時における鋼材スクラツプの集積、加工、販売から被控訴人の予期しないシルペツプ及び省力器機の製造へと拡張され、これにともない本件土地上の工場、倉庫等も増設、拡大されたが、右の施設等の建築については前記特約にかかわらず被控訴人が事後承諾せざるを得ない状況のもとに又は被控訴人に無断でなされたものであり、しかも、前記のとおり、右の施設等には土番使用面積の縮少を図る余地があり、工場、倉庫、材料置場等の配置等を合理化すれば、敷地全体を縮少し、これを効率的に利用することが期待できるものであり、その縮少によつて控訴人の営業が著しく困難になるものとは認められない。

一方、記録によれば、被控訴人は、その主張する正当事由を充足するため控訴人に対し、昭和四七年七月一五日(原審第三〇回口頭弁論期日)に立退料として金三、〇〇〇万円を支払う旨の意思表示をし、次いで昭和四八年七月四日(前同第四一回口頭弁論期日)に右立退料の金額を金八、〇〇〇万円に増額したことが認められ、弁論の全趣旨によれば、被控訴人は控訴人に対する右の金銭上の補償額を必ずしも金八、〇〇〇万円に限定するものではないことが認められる。

以上の諸点及び前記認定の本件賃貸借契約の成立及びその後の経過における諸事情を総合して考察すると、本件においては、結局、被控訴人の本件賃貸借契約更新に対する異議は、控訴人の蒙る損害につき被控訴人が相当と認められる金銭による補償をする限りにおいて、本件土地の一部につき正当事由があるものと認めるのが相当である。

(四)  そして控訴人が返還すべき本件土地の一部の範囲については、返還部分がそれ自体独立して使用されるものではなく、被控訴人の第二工場の機能の一部に取り込まれ、その生産工程の一端を担うという観点で、いかなる位置、形状、面積などの立地条件が整えばその利用価値を発揮できるかという点、控訴人に残される残地がその三営業部門を収容する工場用地として機能を維持するにはいかなる諸条件が必要であるかという点、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮し判断すると、結局右返還すべき土地部分は、原判決別紙土地目録添付図面(一)の(イ)(ロ)(チ)(リ)(イ)の各点に該当する地点を順次結んだ直線で囲まれた部分とするのが相当である。

また、被控訴人が控訴人に支払うべき立退料の額については、右返還すべき土地部分には、右図面の③、④の一部、⑧、⑨、⑯、⑰、⑩、⑳ないし、、、に表示された控訴人所有の工場建物、設備などが存在していることが明らかであるところ、控訴人がこれを収去し残地に移転し、再整備するには相当な費用がかかること(因みに被控訴人の昭和五一年六月九日準備書面によれば、右土地部分の明渡にともない被控訴人の提案する移築案のとおり移設するだけでも、これに要する費用の見積額は、当時において約金三、〇〇〇万円とされている。)、右の移設工事の期間中控訴人の工場の機能はほとんど完全に麻痺し、その間の経費、操業利益の喪失等少なからぬ損失を蒙ること、被控訴人は右返還にかかる土地部分を借地権の負担のないものとして活用することができ、利益をあげうることなどその他本件に顕われた諸般の事情を考慮して判断すると、右立退料の金額は金六、〇〇〇万円とするのが相当である。

従つて、本件賃貸借の更新請求及び本件土地の継続使用に対する被控訴人の異議については、右に説示した限度においてのみ正当事由があるものというべきであり、その余は正当事由はなく、本件賃貸借契約は、右金六、〇〇〇万円を支払うことを明渡条件として、右返還すべき土地部分について消滅したもので、その余は更新されたものというべきである。

六以上によれば、被控訴人の本件建物収去土地明渡請求のうち、主位的請求は理由がなく棄却すべきであり、予備的請求は被控訴人が控訴人に立退料金六、〇〇〇万円を支払うのと引換えに、控訴人に対し、前記図面(一)の(イ)(ロ)(チ)(リ)(イ)の各点に該当する地点を順次結んだ直線で囲まれた土地部分に存する建物及び工作物等を収去して、右土地部分の明渡を求める限度で理由がありその余の部分は理由がない。

七損害金について

被控訴人は、本件賃貸借契約の期間満了後、控訴人が本件土地を占有することにつき、不法行為又は債務不履行の損害として、一日一〇万円の割合による金員の賠償を求めるが、前述のとおり、本件土地のうち前記図面(一)の(イ)(ロ)(チ)(リ)(イ)の各点に該当する地点を連結した直線で囲まれる土地部分以外の土地部分については、異議につき正当事由がなく、本件賃貸借契約は更新されたから、控訴人の右残地部分の占有は何ら不法行為ないし債務不履行となるものでないことは明らかである。また、右の返還すべき土地部分についても、その借地権は契約期間満了時に消滅しても、その返還は、立退料金六、〇〇〇万円の引換支払を明渡条件とするものであり、右は同時履行の関係又はこれに準じた法律関係にあるものと解されるから、被控訴人が右金員を提供して控訴人に明渡義務を生ぜしめないかぎり、同土地部分の占有は違法なものということはできず、控訴人が右借地権消滅後右明渡義務が生ずるに至るまでの間該土地部分を使用することによる利益が不当利得となるか否かは別として、不法行為ないし債務不履行となるものではない。

しかしながら、被控訴人の本件損害金請求は右の立退料の提供を条件とする給付請求をも黙示的になすものと解されるから、右の限度における損害額について検討する。被控訴人の主張する一日当り金一〇万円の損害額は、被控訴人が再抗弁の2の(二)の(3)(イ)(ロ)(ニ)に主張する得べかり利益ないし節減しえた費用を前提にするものであるところ、被控訴人が右に主張するような根拠による損害は、いわゆる特別事情に基づく損害というべきであつて、控訴人においてこれを予見しえたものと認定するに足る証拠はないから、被控訴人の右主張は採用できない。

そこで被控訴人主張の賃料相当損害金について判断する。

被控訴人は昭和四六年一〇月一日当時の客観的経済賃料相当額をもつて右損害と主張するところ、原審における被控訴人代表者宮地武夫の結果により真正に成立したものと認められる甲第四四号証によると、昭和四六年一〇月一日時点における本件土地の客観的な経済賃料は月額一平方メートル当り金二一三円であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。前掲図面(一)によると、控訴人が返還すべき土地部分の面積は計算上2795.7平方メートルであることが明らかであり、そうすると右土地部分の右時点における客観的な経済賃料は月額金五九万五、四八四円相当(円以下四捨五入)であつたことになる。従つて、被控訴人は控訴人が右土地部分につき明渡義務が生じたときからその明渡済みに至るまで少くとも右の金額相当の損害を蒙るものということができる。

よつて、被控訴人の本件損害金請求は、控訴人が被控訴人から立退料金六、〇〇〇万円の提供を受けたときから右土地部分明渡済みに至るまで一か月当り金五九万五、四八四円の割合による賃料相当の損害金の支払を命ずる限度において理由がある。

八以上のとおりであるから、右と結論を異にする原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用し、仮執行宣言の申立については相当でないからこれを却下し、主文のとおり判決する。

(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

(別紙)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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